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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
その中を、喇叭と洋楽とで遡ってゆく気持はわるくなかった。露八は、余興の時の借着のまま、兵の中に交じっていた。
一行は、薩摩屋敷に入る。翌々日は、参内のため、伏見へ向かって発向という日取りである。
市中は、年暮が迫って、誓文払いの売出しだの、年の市だのが、やはり習慣的に、相応に賑わっていた。江戸からは、薩摩屋敷の焼討とか、二の丸の火災とか、頻々と、兇報が入るし、京都での御所の会議には、土州と薩州とが、正面衝突になったとか、新将軍の慶喜公は、大政奉還を布告したにかかわらず、まだその上、軍職も、所領も、官位も剥奪せよといわれて、いよいよ、壁際へ押しつけられた形だから、このままでは済むまいとか。――そうした道聴塗説は、今にも、鍋の煮え油へ、火の落ちそうなうわさばかりであったが、年の市の賑わいは、
(戦は、侍のするものだ)
と、いわないばかりに、べつな世間と、べつな観測から、
(始まったら、始まったときのこと。大晦日と、同じことで、どうかなるさ)
そう肚を決めてしまって、無理にでもカラ景気をつけようと努力している町人気質が、むしろ、兵隊よりは、悲壮に見える。