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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁

青空文庫

鷹の羽

一

――板じん道にて、お蔦。

「ちっ」

二つの忌々しさを見較べて、庄次郎は、鉛みたいな顔をした。せめて、片方の名が、お喜代とでもあったら、このごろの不愉快な日は、いくらか、慰められるだろうにと、思ったりした。

鷹の羽

一

渋沢栄一からの手紙には、

啓呈

と、謹直な書体で、

(――しばらく藩邸の各位や、道場の諸兄に、お世話に相成っていたが、一身上の都合で、目下は郷里高崎在に帰省いたしている。先頃、柳原土手で、ちらと、お姿を拝したが、仔細あって、わざと、お別れのご挨拶もせずに失礼した。近く、ご拝眉の機を得て、万語お詫び申しあげるつもり――)

そんな意味に、加えて、

(尊兄の大成を祈る)

と、むすんであった。

庄次郎は、ほッとした。心配していた金の件にはふれていないし、催促がましい辞句はどこにも見当たらない。

「じゃあ、あのとき、田舎へ帰省ったのだな……」

柳原土手で、町人用の古着を買っていた渋沢の姿が、目にうかぶ。庄次郎は、

「まず、当分はいいぞ」

と、安心したが、同時に、近くご拝眉の機を得て――が少々気にかかる。近くといえば、いつ来るかわからない。そのときには、きっと、催促だろう。