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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁

青空文庫

三

「土肥っ」

呼んだが、醒めもしなかった。

「かまわん、彼奴が借主だ。そばへ抛りこんでおけ。眼がさめたら責任を思いだすだろう。渋沢に聞かれたら、吾々は、知らんというのだ」

木綿財布を、ぽんと、投げこんだ。それがうまく、庄次郎の大きな腹の上に乗ったので、

「上手い」

「叱ッ」

歯の曲がった日和下駄を鳴らして、万年門弟たちが、逃げ去った。

三

「ちっ、好かない書生ッぽだネ」

お蔦は、よろめいた手を、柳の樹にささえていた。

肩をぶつけて、行き交った小倉の袴一群を、張りのあるきつい眼で、睨めつけた。

出した手紙の返辞もないし、あれきり、顔も見せない庄次郎を、どうしたかと思っているところへ、しがらきから、使いが来て、

(まことに相済まないが、一両ほど、ご用立てねがいたい)

と、いう走り書。

それだけなら、

(もう、情人ぶって)

と、お蔦の気質は、つむじを曲げたかも知れないが、脇差の笄が一本、手紙の中にくるんであった。後藤彫の象嵌だけでも、安くない品だった。

(この人、ほんとうに、可愛らしいところがあるよ……)

お蔦は、金がなかった。妹のお里にも云いたくないし、お喜代に云えば、なおさら、