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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁

青空文庫

二

二

無事に、五卿を送って、春日丸から上陸した筑前兵や、薩州兵に、半日ずつの、交代休暇が出た。

赤飯の小折箱を、一つずつ持って、煮しめ蓮根や、芋を、指で、抓んで食いながら「御嘉酒」で、赤い顔をした兵が、年暮の市中へ、あふれて出た。

兵隊には、大晦日がなくて、兵隊ばかりが、人間らしかった。

露八も、余興のときの借着をそのまま着て、刀までさしていた。「御嘉酒」にも酔っぱらったし、赤飯の折箱も一つもらった。ぶらさげて新町の小格子をあるいていると、遊廓の人気は、こぞって自分へ集まって来るように、黄いろい声が、二つの耳では聞きとれないくらい、方々からかかる。

「ちょいと」

「小折詰さん」

「赤飯さん」

「それを、置いて行きなんし」

「あたいに、おくんなまし」

「こっちへさア」

「吝んぼ」

考えてみると、人気は、自分にあるのでなくて、自分の手にさげている赤飯らしい。

「やろうか」

露八は、顔の小さい、ちょっと可愛らしい妓を、小格子の中に見つけて、折箱を、上げてみせた。

その妓も、青じろい皮膚をしていた。

「え」

だまって、頷いた顔が、何だか不愍だったので、露八は、折箱と一緒に、登楼ってしまった。