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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
三
「そこまで、送って行きましょうね」
長襦袢のまま部屋を片づけて、お蔦は行燈に向かって、燧打石を磨っている。
ふと、庄次郎は、新妻の照子をおもい出した。行儀作法がよくて、文字があって、貞淑で、申しぶんのない良妻が、彼にはどうしても好きになれなかった。
その照子と、父と、やぶ蚊が待っている家庭を思うと、庄次郎は、また、坐りこんでしまった。
行燈がともる。
隅で着物を着ていたお蔦が、
「庄次さん……」
もう、女は、呼ぶのからして言葉が違っているのだ。甘え声で、
「ちょっと、手を貸してよ」
「なんだ」
「帯の端を、ぎゅっと、締めてくれない?」
庄次郎は、むっと、面を膨らしていた。
「嫌なの」
勝手にしろっ――と思いながら彼ははっと手を出して、
「こうかっ」
「あ、痛。そんなに強く締めたら、お腹がちぎれてしまう」
「先に、帰るぞ。俺は」
「ホホホ、ほんとに、怒ったのですか。ごめんなさい、堪忍してね。……それから、私を、捨てないでね」
男の頬を、両手で持って、口紅のとれた唇を、もいちど、前へだした。
三
亭主は、こはだの鮨を売りに歩いている、階下には、内儀さんが、小僧相手に、こはだの小骨を、毛抜きで抜いていた。