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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
二
三
「鳶の者へ、配ったのさ」
「ろ組の頭からは、お前さんの方へ、もうお金は渡してあると聞いたがね」
「俺に、用があると呼んだのは、そのことか」
「帳面のくくりがつかないもの」
「ふん……」
「なにが、ふんですか」
「この小屋を建てた金はどこから出ていると思う。木賃宿にいたおめえさんたちが、とにかく、てん屋ものの一つも食って、先生奥さんといわれるようになったなあ、誰のためだ」
「そんなことは、べつな話でしょう。帳面は帳面ですっ」
「なに……」
と顔いろを変えたが、露八はすぐ首を振って、
「ああ、云うのも嫌だ! ……あばよ、おたんちん」
ぷいと、小屋の裏から飛びだした。後ろの方で、健吉の声が、
「露八っ――、露八――」
追いかけて来るようであったが、彼は、振り向きもせずに駈けだしてしまった。
三
夜を嫌う賓客があるので正午十二時からの宴会であった。招く方は、三井組、小野組、渋沢、三野村などの第一国立銀行の創立者で、招待されるお客側は、大蔵卿その他の参議、大丞、大輔、権頭、いわゆる朝野の貴顕紳商である。会場は両国の中村楼だった。
国立銀行の株式募集は、案外な不成績であった。銀行事業とはどんなものか、株式とはどういう組織か、世間が皆目知らないのである。