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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

もちろん又太郎は、自分が十歩とも去らないうちに、供物が消えてしまうであろうことも知っていた。

――が、又太郎には快かった。いつからか、母は地蔵尊を信仰していて。「そなたを生んだ難産の折もお救いであったし、そなたの疱瘡の軽うすんだのもお蔭であったぞや。どうぞ、そなたも生涯の守護仏として給べ」と、何度聞かされていたことかしれない。

でも、これまでは、そんな心にもなれなかったものが、ふと旅の路傍で、こだわりもなく、今のような姿を神妙に彼が見せたのは、これも母と離れて、かえって、子の中に、母がほんとに分っていたからであろう。――で、彼は途々、母がよく夜語りにした地蔵尊の仏説などを、独り想いつづけながら歩いた。

羅刹地獄の六道の娑婆苦も能く救うというお地蔵さまも、まことは、一仏二体がその本相であり、半面は慈悲をあらわしているが、もう半面の裏のおすがたは、忿怒勇猛な閻魔王であって、もともと一個のうちに、大魔王と大慈悲との、二つの性を象っているものですよ、と母はよく言った。――幼い耳に沁みたそのふしぎさやら怪しさが、彼にはいまだにこびりついている。

「……そうか。