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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

……若殿。対決のおもようは」

「いや、思いのほかだった」

と、高氏は口も重げに。

「問注衆の列座を前に、新田は良い子になりおった。また、道誉と来ては、箸にも棒にもかからぬ曲者。なるほど当世の婆娑羅者とはああしたものか。開いた口もふさがらなんだ」

「では事ごと、御不利な結果にでも」

「何、そうでもない」

「凶でなくば、吉でござりましたのか」

「ともいえようか。……赤橋殿や伯父上杉殿の、蔭にあってのお骨折りに相違あるまいが、とにかく、高氏が身には、御不審なしと申し渡された」

「えっ。晴れて、お咎めなしと」

「むむ、まずはな」

「すれや御祝着。……若殿おめでとうござりました」

「よせっ。道誉の口真似などは」

高氏は突如、不きげんな色をなして、右馬介を怪しませた、というよりもびっくりさせた。

彼にすれば、高氏のそんな激語の迸りなど、理解できるわけがない。問注の場のいきさつは見ていず、また、高氏の胸奥にある、もひとつの秘を、打明けられてもいなかった。

いや高氏自身にすら、複雑な今の胸を、どう支えるべきか、持って行くべきか、冷静な処理もついてはいない。

では一体、何をそんな重荷に感じているのかといえば、いうまでもなく、かの“祖父家時の置文”にほかならなかった。