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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
彼が、門櫓に立ち、狭間をひらいて、弓をしぼり始めた頃は、すでに敵は潮先みたいにひたひたと近づき寄って、
「代々の北条殿の恩顧もわすれ、大それた逆を謀む人非人。面をみせよ、名のり出よ」
「よも姿は見せられまい、畜生武士」
「外道め、忘恩の徒め」
あらゆる悪口を、矢に交ぜ、投げ松明に交ぜ、礫に交ぜて、浴びせていた。
「だまれっ。いずれが外道か」
多治見は、怯まない。
「――天下の声に聴け。ときの外道は、執権どのを繞って、鎌倉の谷々にこそみな住むわと、人のいうぞ。外道の手下の小外道めら、多治見四郎二郎国長の矢さきを受けらるるものなら受けてみよ」
大言ほどなものはある。
彼の矢に中って仆れた者は幾人かしれない。なかでも、狩野前司の若党助房は、かぶとの真っ向を射ぬかれて、仰向けに馬から落ちた。
また、寄手の伊藤彦次郎父子は、功名にかられて、門扉の下から内へ、むりに這い込もうと足掻いていたところを、寄りたかッて来た邸内の武者のため、たちまちなます斬りにされてしまった。
無残、ここかしこである、酸鼻な状も、言いようがない。
矢は尽き刀折れて、多治見国長も、ついに櫓の上で立ち腹切った。