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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
――宝戒寺の並木、滑川の水音、大蔵への道はだんだんに暗かった。
「のう登子。今日ぞ、そなたも、あきれたであろ?」
「ええ、人々の婆娑羅には、あきれましたが」
「自分の良人には」
「驚きもいたしませぬ」
「はははは、強がらいでもいい」
「いいえ、真実」
「よくよく物驚きを知らぬ女子よな」
「羅刹の妻でございますもの」
「……むむ」
二人は、結婚四日目の雨夜の契りを思い出していた。
しばらく、黙りあって。
「いや思えば以前、聞いていないこともなかった。赤橋どのの妹君は、いかなる人へ嫁ぐであろう。あの女性を末始終よう持つほどな者は、鎌倉御家人あまたな中にもあるまいが、もしあれば、その男の顔見たいと」
「そのような蔭口、殿もお耳になされましたか」
「その男が、わしだった。――降るほどな縁談、みな拒んでいたそなたが、選りによってと、笑われたはずよ」
「いといませぬ。さまざま人は申しまする。この私を、古い平家の女人や平安の女性に比して、鎌倉の世が鋳て生んだ鎌倉型の女子じゃなぞとも」
「そりゃ、中っている」
「ま、殿までが」
それきり二人の声もしない。折々、石にひびく蹄と、滑川の暗い川音だけがつづく。