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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

川へ泛かぶと、心もいつか暢々してくる」

「まことに」

右馬介は、すぐ相槌を打った。

「私としても、今日はヤレヤレという心地です。天の助けか、一路ご帰国と、俄に、ご翻意くださいましたので」

「はははは。右馬介のやれやれと、わしの暢々とを一つにされては迷惑だぞ。“相似テ相似ズ”と申すものだ」

「はて、昨夜もめずらしい一語を伺いましたな。“一雲ヲ見テ凶天ヲ知ル”とか」

「ウム」

「いま仰っしゃった語も、何かの詩句にでもございますので」

「宋の人、文天祥の詩とやら聞いた。ちょっと、おもしろい詩ではある」

「どうせ、すぐ忘れましょうが、舟の徒然にひとつお聞かせを」

「こういうのだ」

又太郎は低い声で詩を誦した。

忙裏、山、我ヲ看ル

閑中、我、山ヲ看ル

相似テ、不相似

忙ハ総テ、閑ニ不及

「ははあ。……なるほど」

「わかる」

「わかりませんな」

「では、山を見るがいい」

「されば、左には摂津の六甲、龍王岳。右には、生駒、金剛山のはるかまでが霞の中に」

「右馬介は、今、山を見ている」

「確かに」

「だが、あたふたと、忙裏に暮れている日には、山と人間の位置は逆になる」

「すると、どうなります」

「山が人間を眺めていよう」