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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
もの心ついたときは、もう田楽衆のなかで芸を仕込まれておりました」
「とはまた、不運なやつ」
宵の舞台姿を連想して、彼はひとしお不愍をおぼえた。奴隷の売り買いは古くからいくども禁止されては来たが、人買いは社会にたくさん生きている。足利の領下でも、わけて飢饉年などには、痩せ馬なみに市で売られる子が野菜籠の中や陽溜りの辻に、群れとなって曝されるのはめずらしいことではなかった。
「小殿。……もし小殿。急にわたしは心配になってきました」
「なにが」
「いま申したような身の上とお知りになって、藤夜叉がお厭になって来たのではございませんか」
「なんの、あわれとこそ思え……」言いかけて、ふと。「おっ、たれか来た」
と、突っ立った。
藤夜叉も共に。――だが、なお取りすがって。
「小殿、何がなお形見の物でも給わりませ。いつの日かの、よすがに」
「これを持て」
もう高氏は慌てていた。
彼女の手へ渡したのは、旅に立つ日、母から賜わった地蔵菩薩の守り袋だった。藤夜叉はそれを持つと、梅をくぐッて、梅ばやしの向うへ走った。白いものが、そのあとを片々として舞い、どこかで夜の鶯が物驚きをして啼いた。