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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「だが、伊吹の泊りは、ちと道草をくい過ぎたような」

「いや、わずか二た夜、さしたる遅れでもございますまい」

「それがなぜか、長い惰眠にでも溺れていた気がする。まるで長夜の夢から醒めたような今日の空ではあるよ。もう、あのような大酒は以後きっと慎もう」

「これで二度めのお誓いでございますな。どうか三度めのないように」

「帰国の後は、ゆめ、人には申すなよ」

「申しますまい」

「何事もぞ」

「はっ、何事も」

返辞は素直だが、右馬介は、にやりと笑ってみせる。

……さては、こやつ。

と、高氏も苦笑を催す。

昨夜の田楽見物からあとの仔細を、この男、うすうす承知なのではないか。と思えば、すこし後ろめたかった。けれど、藤夜叉との秘か事も、余人ならぬ右馬介一人の胸にたたまれているぶんにはと、そこは腹心の郎党のよさ、ひそかに多寡はくくられる。

ところで。

と高氏はまた、馬上の春風に想い耽ける。――こんどの長い遍歴でいったい自分はなにを得たろうか、と。

――あなたは井の中の蛙です。

これは常々、母からいわれつけていたことだった。その母はまた門出の日こうもいった。

よく世間を見ていらっしゃい。