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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
「……わたくしは?」
と、花の頸を、お袴の下に折った。
「そもじか」
ご思案だった。
恋々たる離別は龍顔をかきくもらせてはいたが、ふと、幾多の唐土の妃と帝王の例などもお胸をかすめたことであろう。国と女――その比重へこたえるような語気であった。
「あとへ残れ」
「お供はかないませぬか」
「ここには中宮(皇后の禧子)もおり、余の女房の小宰相や大納言ノ局もおる。水仕の末の女童まで、そもじを見失うたら途方にくれて惑い泣こう。よも六波羅とて、女は追うまい。各※(二の字点、1-2-22)、身をよき所へ隠せ。やがて時来たれば迎えてとらせる」
「……はい」
艶姿にはなお、瑞々と垂れるようなものがあったが、廉子ももう聞きわけのない妙齢ではない。女性の三十一であった。
「お上。はや御車へ」
外では、扈従が急きたてていたし、局々では、不意を知った女房たちが、いちどに灯を濡らして泣き乱れていた。
里内裏とはいえ、地域は広大だ。一ときの、御座所のあたりは言語に絶する騒ぎだったが、しかし中門の外、まして外門の遠くへなどは、この夜のこと、何一つ響いてはいない。
月もない二十四日の闇空、ただ秋の声だけだった。