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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

またそれ以上のこともしない。

女は兼好と枕をならべて、初めのうちは一つの姿態をもっていたが、やがてすっかり安心感を四肢にたるませて寝息に入った。その経過もよく知っていたほど、じつは兼好のほうこそ、ちと寝つきが悪かったようである。

が、彼はあたたかな、可愛いい物に、その胸毛の辺を、こそぐられていた。宵からふところに寝つかせていた雀である。が、雀も寝飽いていたのであろう。やがて夜も明けぬうち、彼のふところを飛び出して、チチ、チチと、ふとんの上で囀ッていた。

「おやっ?」

彼も首をもたげた。館じゅうで、何かただならない物音がする――。

音の性質で、兼好はすぐ四囲のとどろきを、

「お、合戦だな」

と、判断した。

むかしは滝口の武者卜部兼好だった者である。すぐ体には以前のものがよみがえっていた。あわてはしない。

「女」

「…………」

女は、ふとんの上にふるえている。館じゅうの屋鳴りを白い顔に聞きすましていた。

「外へ出るな。ここにおれよ。耳をふさいで」

兼好はいそいで法衣を着る。そして、ハタハタと胸へ跳びついてくる雀を手に掬い取って、それを懐中へ仕舞いながら、外の廊へ出て行った。