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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「ほ……。あったのか。これへ持って来てくれたのか」

宮はほほ笑まれた。

将監以下、武士たちにすれば、これは驚くべきことだった。宮がほほ笑まれたなどは――この道中はおろか、ついぞ見たこともないのである。のみならず、宮はうれしそうに、

「兼好。ありがとう」

と、礼をいって、ほろりとなされた御容子でもある。

さては、この坊主は、兼好という者か。兼好とは、どこかで聞いたようなと、武士たちは眼をそばめ合ったが、彼は頓着なく後ろを見廻して、遠くに輪を作している漁夫の妻や老幼の群れのうちへ、

「おおい命松よ。命松丸よ。どこにおるのじゃい。いいつけた物を持って、これへ来い。何も恐いことはない。持って来い」

と、呼びたてた。

おそらく、その命松丸は、何かに怯じて尻込みしていたものだろう。おあるじの兼好法師に呼ばれると、初めて、

「はいっ」

と、元気のいい声を人ごみの中で答えた。そしてさも大事そうに両の手に目笊を抱えながら彼の側へ馳けて来た。

野べの、嫁菜やたんぽぽでも摘んで来たのか。

目笊の目には、青い物の色が、こぼれて見える。

「では、宮さま」

兼好は、命松丸からその小笊を受けとると、献上人の畏みに倣って、うやうやしげに、宗良の前へ捧げて言った。