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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「ア。しばらく」

と、近寄って来た見すぼらしい法師があった。

将監は、ぎくとしたらしい。その眼を、かどだてて。

「寄るな。何者だ」

「はい。これは念仏堂の懸人にございまする」

「ははあ、では何か。……昨夜チラと耳にしたが、宮へむかって何かぼそぼそ話していたという、あの茶汲み坊主は、そのほうなのか」

「さようで」

「その坊主がまた、何でこれへ」

「じつは昨晩、ご悲嘆のさまを、見るに見かね、おのれの身一つさえやッとな乞食法師の分もわすれて、つい浮世いろいろな苦患ばなし。苦患があればこそ、世も面白うござるものを、などと戯れ交じり、お慰めを申したわけでございました」

「わしに説法はいらんよ。用向きだけを、はやくいえ」

「はははは、お気短な」

法師は動じもしない。武士など虫ケラともしていない不逞な風すらなくはなかった。

「宮さま」

あげくに、彼は将監をさしおいて、心から傷わしげに、宮の方へ向って頭を下げた。

「――昨夜、四方のお話しついでに、今朝までにはお捜しおいて、お餞別にさし上げましょうとお約束しておいた物を、やっと捜させて、ただいま持ってまいりました。……どうぞ、配所の友として、いつまで可愛がッてやっていただきとう存じまする」