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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

道誉の声である。

兵たちは口々に、取り逃がした曲者の強かさを、彼の前に告げ合った。すると、道誉は哄笑した。

「いや、さほどな者でもあるまいがの。さいぜん捕えた乞食法師も、自身、入念に糺してみたら、何のことはない、行宮の献物欲しさに忍び入った物盗みと白状しおった。おそらく逃げた奴も同類だろう。捨ておけ、捨ておけ」

道誉はまた、兵たちへ訊ねた。

「もう、時刻は寅(午前四時)のころだろうな」

「いやそうはなりません。やっと丑の下刻でしょうか」

「そうか。千葉ノ介の一隊が、この夜半にでも着きはせぬかと、つい眠りえずにいたが、ではまだ充分一ト眠りはできるな。……もう今のような飢えた献物盗みもやって来まい」

「おことばですが」

「なんだ」

「あとの歯がみではございませぬが、どうも逃げた曲者は、ただ者とは思えませぬ」

「ただ者でなくば、何だと申すか」

「ひょっとしたら、宮方の一類ではございますまいか」

「そうだったら面白いが、いかに不敵な宮方でも、一人二人でこの陣営へ忍び込むなどは考えられぬ」

「そう仰せあると、そのようにも思われますが」

「世に餓鬼ほど恐いものはない。餓えた鬼は都でもまま命知らずをやる。