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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
木を楯に、眼をあらためて見るまでは、しまったと思う余裕もなかった。
着ている半蓑は針のように逆立った。兵が「――またか」と叫んでいたのは、もしか自分の来る以前に、宮はすでに警固の士に見つかっていたことなのではあるまいか。
「もし、そうだったら」
いやそうでなくても、万事休す、ともう観念をつけずにはいられない。彼は、らんと動物的な眼をくばった。逃げる方向を嗅ぐ動作である。土豪の本領がいま見えた形である。
つ、つっ、と後退がりに、楯としていた木の幹を離れかけると、包囲のいとまなく前方にだけ迫っていた兵は、
「逃がすなっ」
と、とたんに喚いた。高徳が後ろへ走ると見たのである。
だが、逆だった。高徳は前へ猪突していたのである。だから不意をくった兵のかたまりは二つに割れ、風を持った蓑と剣影が走り抜けたあとには、はや二、三人がぶっ仆れていた。
しかし、この地ひびきも一瞬だった。すぐ元のしじまに返って――ほどなく、追っかけて行った兵の群れが、空しげに戻って来ると、そこの四ツ目結の紋幕の外に、ひとり黙然と散る花に見恍れている将があった。
「なんだ。何事があったのだ。物々しげに」