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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
しかし、ここへ来ると、道誉の態度はただ、死の介添人として、刑の進行を努めるだけで、何も語ろうなどとはしない。
「万事休すか」
死の座は、無力の座だ。いやおうなしだ。とたんに、寸秒の刻々も、具行には、心ぜわしい。
直前の死が描き出す、幼時の父母のおもかげ、自分の少年時の姿、後醍醐もまだ帥ノ宮といっていた頃のお顔やら、あの人、この君など、数十年の宮廷生活が、回顧の電光となって、あたまのうちに、明滅する。
惹いては、
「隠岐の帝さえ、ご息災なら、いつかはきっと」
と、遠くへ、祈りの目をあげた。
すると。――その眼の前には、忽然と、隠岐の荒海が近づいていた。いちめん、白い微粒な霧の怒濤が睫毛をふさぐほど押し流れて来たのであった。
伊吹も見えず、野も見えず、そして丘のぐるりに、十人ほどの黒法師の影が薄く立木みたいな裸足姿を立ちならべて……何か、経文を誦しはじめている。
経に和して、しきりな雷鳴が耳を打つ。それにつれ、誦経も、だんだんに、高かった。
「道誉っ」
「はっ。ご遺書の、おしたためは、すみましたか」
「まだだ」
「ポツと、雨が襟を打ってまいりました。いざ、料紙の濡れぬまに」