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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

直義が血気な突撃に出かねないのを、あんに抑えていたのである。

吉良、今川、細川の各部将は、まず分別もある者と、それらには安心して部署をまかしておいていいとしている。

だが、直義に劣らない逸り気の将校はほかにも多い。仁木義勝、石堂綱丸などは、とかく功名あせりをしそうである。斯波、畠山、高なども目が放せない。で、そういう荒武者の統御には、上杉憲房を副将の資格で上に据えてあるのだった。

「……始まったな」

と、高氏はその五体で全戦場の響きを聴く。

馬けむりが揚げる砂塵と音響を交ぜて、各所に始まった戦端は、そのまま五月の空に映写される。焼けあとのほこりは黒く舞い立ち、大路や野原の戦いは黄いろいつむじを吹き起す。

「兄者」

直義は、気が気でない。

「二条方面の敵、六角勢が、あなどり難い勢いのようです。援けを引っ提げ、一撃を加えてまいりましょうか」

うん、ともいわず、高氏は野面や焼けあとの空を見ていたが、独り言のように言っていた。

「大事ない、大事ない……」

喊声や矢さけびの急にも似ず、どの方面も半日の駈引きは、あらまし小合戦で日が暮れた。そして夜に入ると、不気味さはいや増して、地獄の火みたいな赤い光が、五月の闇の彼方此方に綴り出された。