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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

宮は笑って、手ずから簾をパラと下ろした。

それを機に車の輪は中門からそとへ軋み出す。すると、べつな奥口から駈けてきた家臣の一群が、何か、殿ノ法印へむかって事々しい顔つきで告げていた。――それを、宮は物見(車の小窓)から振向いておられたが、牛車はもう表門を出て銀一色の人通りもない大路の夕を打っていた。

殿ノ法印は、そのためややおくれてあとから車副に追ッついた。先駆と車副の十数人は騎馬なのである。「良忠、良忠」と車のうちからお声があったので、法印が馬の鞍に身をかがめながら答えると、「何事があったのか」と、いうお訊ねである。――良忠はいっそ申し上げまいと思っていたふうだったが、ぜひなくありのままお耳にいれた。

「きのうの訴人――佐々木道誉の家来民谷玄蕃という男が、いつのまにか下屋から姿を消し、どこにも見えぬと、立ち騒いでいたものにございまする」

「そんなことか」

「はい」

「元々、他家の家来だ。無断で去ったからとて、べつだん気がかりにする要もあるまい」

「は。べっして、気がかりとはしておりませぬが?」

「それよりは、牛が遅いな。車の輪が重いのか」

「雪もだいぶ積もりましたので」