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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
「旗を振れ」
正成は、途々言った。
「菊水の旗を、高々と振って、旗の下へ、降伏してくる者、降伏せぬまでも、これへ刃向かって来ぬ敵には、手出しをするな。やがてはみな寝返ってくる者ぞ。――ただ追い声かけて追いまくせ。いたずらに敵を殺して快とするな。逃げまどう雑兵など、いくら斬っても益はないぞ。ただ追えばよし。敵は敵みずからの恐怖に追われて潰走をつづけ、自身の馬蹄で自身の犠牲を止めどなく捨てて逃げよう」
これらの令を、正成はいちどに叫んでいたのではない。
敵を追いつつ、機に応じて、いくたびにも、馬上から前後へ言っていたのである。
馬は、見事な鞍をおいたのさえ、敵の去った諸所方々の陣のあとに、放れ駒となって捨てられてあった。正季もその駒の一つを拾ってまたがっていた。彼のほか、
和田正遠、正高兄弟
神宮寺ノ正師
佐備正安
安房四郎左衛門
安間了現――なども駒をひろって先駆し出した。
また、その日、返り忠してきたばかりの散所ノ太夫義辰とその子石川豊麻呂も、手勢をつれて追撃に加わっていた。
いやこの少ない千早勢が、赤坂ともう一方の間道を駈けくだして、西条川と東条川とをむすぶ麓の石川河原へと出てきたころには、おどろくべき人数にふくれあがっていた。