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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

折から今の曲者という声! よき獲物、ござンなれと息まいたものであろう。日頃の鍛錬を薙刀の柄にこめて、そこへよろけてきた弦之丞の影を見るや否や、月山流の型どおりにその腰車を手強く払った。

だが人一人、そうたやすく斬れないこと無論である。

弦之丞の身は飛燕のごとくかわっていた。そして三位有村は薙刀の坂刃に風を切らせてのめりこんだが、ウム! と踏み止まって左手の一本延ばしに切り返すと、一緒に薙刀は、空を躍って天井からはね落され、三位卿その人はと見れば、はるかなる床の間の花瓶と共に仆れて、花と水を狼藉に浴びていた。

「ちッ! ……残念」

起き上がって薙刀を拾った時、次の間の襖がサッと開いた。甲斐甲斐しく装立った近侍の者、三人、五人、七人、十人ずつ――得物を取って続々と八方へ駈け散ってゆく。

「初太刀をつけたのはこの有村、余人に功を奪われてなるものか」

腰の痛みを忘れて自分も一緒に走りだすと、

「三位殿、三位殿」

後ろで呼び止める声がする。

ふりかえってみると阿波守、微笑を含んで立っていた。

「どこへまいらるる?」

「どこへといって、今の騒ぎ、殿にもご存じでおわそうが」