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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

と、もう一度、窓に見える女の顔へ頭を下げると、

「あッちへ廻って下さいな」

「へ、お勝手口へ?」

「そこに潜り戸があるだろう」

「ございます、ございます」ガラリと開けた水口の戸も開けっ放しに、鉄砲笊と一緒に入り込んだ。

「たいそうお寒うございますな」

「縁側のほうへお廻りよ、少しばかり古反古を払いますから」

打ち見たところ、五人扶持ぐらいな御小人の住居でもあろうか。勝手つづきの庭も手狭で、気のよさそうな木綿着の御新造が払い物を出してきた。

煙草の火を借りて話し込んだ屑屋、さっきからこの界隈の噂ばなしをしきりに聞きたがって、

「時に御新造様……、この駿河台にある甲賀組というのは、たしか、この前の囲いの中にある、真っ黒なお屋敷のことじゃございませんでしたか」

「そうだよ、墨屋敷といってね、二十七家の隠密役の方ばかりが、この一つ所にお住まいになっている」

「二十七軒もありますか。フーム、ずいぶん広いものでございますなア」とわざとらしく感心して、ちょっと相手の容子をみたが、その眸の底に鋭い光が潜んでいた。

「申しちゃ失礼でございますが、隠密役なんていう方は、平常は何の御用もねえでしょうに、これだけの家筋をそれぞれ立てておく将軍様の世帯も、大きなもんじゃありませんか」