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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

万吉がふと目をつけて、塀の穴から差し覗いてみると、やッぱり人の気配はない。シーンとして狐狸の棲家かと思われるくらい。

だが――ここに必ず誰か棲んでいることを、その時、万吉に教えてくれたものがあった。何かといえば、その部屋の腰壁と垣の間に落ちていた丸い紙屑だ――雨に打たれた様子もなく、フワリと草の上に浮いているのは、捨てたばかりの手拭紙に相違ない。

いつか俵一八郎に、今度のことは目的が大きい、必ずケチな目明し根性を出すなよ、といわれてもいたが、こんな物が目に触れると検索心がムラムラする。万吉はそこらの棒切れを拾って、塀の穴から腕を伸ばし、その紙屑の玉をかきよせて手に取った。

嗅いでみると、プーンと伽羅油のにおいがする。そして皺をのばした紙の中からもつれた髪の毛が四、五本出た。その一本を指に伸ばして見て、彼は女の毛だということを知った。

「してみるとこの屋敷は、お千絵様が立ち退いた後へ、旅川周馬とかいう奴や、女も住んでいるらしい。とすると、おかしいなあ……なんだって、こう草茫々としたまま方々釘付けにしてあるんだろう?」

耳をつねって考えても、どうもはっきりした見当がつかないふう。