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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
「オオ寒、オオ寒……」
駈けて、ころんで、また駈けて、一膳めし屋へ飛びこんだ。
縄すだれでもその中は。
お芋の匂いや、酒の湯気や、汁に煮える葱のかおりで、別世界ほど暖かい。
「小父さん――」
こういったのはお獅子の子である。
姉と弟であるらしい、十四ぐらいな女の子と、十一ぐらいな男の子だ。
かじかんだ手を口に当てて、ハアハア息をかけながら、
「小父さん――御飯をちょうだい」
「あいよ」
と奥のほうでめし屋のおやじ。
「たいそう今日は遅かったな。今すぐに、暖かいのを拵らえてやるから、そのお客さんの火鉢へ、少しあたらして貰っていねえ。オイオイ三輪ちゃん、紙をやるから、乙坊の洟をカンでやんな。水ッ洟をチュチュさせて、お客様のそばへ寄るとな、それ……お客様の鮟鱇鍋がまずくならあ」
「なに、かまやしねえ」
と隅にいた客。
「こっちへ来てあたるがいい」と、火鉢を向けて、お獅子の姉弟を手招きした。
それは目明しの万吉であった。
お獅子の子は、人なつこく、
「おじさん、あたらしておくれ」
と、万吉の側の火鉢へ、しがみつくように寄ってきた。
姉と弟の手が二本、凍えきッていたとみえて、炭火の上に、がツがツとふるえている。