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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

時刻は、まさに、宵の五刻(午後八時)。

それは、ちょうど。

かの、駿河台の墨屋敷――鏡の裏の穴蔵部屋で、お綱や、お千絵や、その乳母たちが、密見の間に火をかけて、唯一つの力と思ってすがった数珠梯子が、プツンと切れた――その時刻である。

どたどたと、飯屋の二階から、三、四人の若い者が、ころげるように降りてきた。

「火事だ!」

「火事、火事、火事」

ちんばの下駄を突ッかけて、ワラワラと外へ飛びだして行ったので、皿を洗っていた亭主も、万吉も、お獅子の子も、それに巻かれて、縄のれんの外へ駈けだしてみた。

師走初めの冷たい風が、向う柳原から神田川の水をかすって、ヒュッ――と町の横丁へまで入ってくる。

「どこだ、火事は?」

「今、二階の物干しから、たしかに見えていたんだ」

「だってちッとも赤くねえじゃねえか」

「火の手は上がっていなかったが、お茶の水の森あたりで、ボウ――と、白い煙がのぼった」

「よせやい。夜靄か、湯屋の煙を見まちがいしやがッて」

闇を仰いでいた首が、いっせいに、なアンだ――という顔をして、少し拍子抜けしていると、紛れもない二度目の半鐘。

ジャーン! ジャーン! ジャーン。