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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

「おやじさん、おつりはお獅子にやってくンな」

というや否や。

後も見ずに、目明しの万吉、もう、バラバラと提灯の駈けみだれている、紅梅河岸を一散にぬけて、息もつかずに、駿河台まで韋駄天と飛んできた――。

針を吹ッかけられるような寒風なのに、万吉は、あぶら汗をタラタラ流して、紅梅河岸から上り道、突きあたる奴を突きとばして、まっしぐらに、駿河台へ駈け上がった。

お千絵様の墨屋敷――

燃えあがっていやしまいか、と思ったが、そこまで来てみると、あなたこなたの組屋敷も、また、案じていたそのお屋敷も異常はなかったので、ホッとしたり、急に、拍子抜けがしたりした。

だが、ホッとするのは、まだ早かった。

あたり一面、夜靄のような薄けむりが、どこからともなくもうもうと立ち迷っている。

「出火ですぞ、出火でござるぞ」

わめいて廻る組屋敷の者。

「どこだ、どこだ」

「火元はどこだ、火元は※(感嘆符疑問符、1-8-78)」

後から後からと、ここへ、駈け上がってきた人々も、やや戸まどいの態だったが、やがて、その煙が、人家のないお茶の水の崖ぷちからだと知れて、それッ、怪し火だとばかり、皆そのほうへなだれていった。