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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

するとその途端に。

駕の中からヌッと出た手が、不意に、お十夜の足をさっとすくった。

一挺が空駕だったので、全く油断しきっていた孫兵衛、もろくも仰むけざまにひっくり返されたが、

「おのれ!」というと、助広を鞘走らせて、地へ腰をつくと同時に、手ははね上がった駕のすだれを、パラリと虚空へ向けて斬っていた。

「な、なに奴だッ」

さすがなお十夜孫兵衛も、立って身構えを取りなおしたものの、語勢ははなはだしく乱れている。

「周馬、手を貸せ、手を!」

こうあわてて息まくと、旅川周馬も驚いた。いくら悪党づきあいで狡く立ち廻っているとはいえ、まさかにここでこの場をはずしもならず、また得意な詭弁でゴマ化しているいとまもない。

ぜひなく周馬、ギラリと一刀を抜きつれた。

「おお、心得た」

剣の光をジリジリとよじらせて、お十夜と共に、怪しげな駕を挟み打ちに、左右から肉迫して行った。

で――二人は、中の奴が駕からヒョイと出たが最後と、充分大事な気構えを取っておいて、さて何者だろうか? と密かに相手をうかがってみると、向うの者は、一向静かなものごしである。

吾から、お十夜の足をすくい飛ばしたからには、それ相当な用意もあるべきに、ガタとも騒ぐ気色がない……。