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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

不意を狙って、見事に相手を斬って仆したことは仆したが、いかにも、無造作だったことと、弦之丞にしては、余りにもろかったと気がついて、天堂一角、

「や、これは、いぶかしい」

と、すぐに自身の得意をあやしみだした。そして、虚空をつかんで仆れた者の側へ、血刀をさげてソッと寄って行った。

違っている。

虚無僧には違いないが、それは似ても似つかぬ別人であった。

とすると――弦之丞は、折よく山門の中から出て来る虚無僧があったので、尾行の眼をくらますために、わざと姿をそらしたに違いない。

「ええ、騙かられた」と一角は、われとわが不覚を罵りながら、地団駄をふんで、ふたたび相手のかげを血眼で探しはじめた。

そのころ。

一方の法月弦之丞は、御霊廟のわきの築土をヒラリと越えて、もうとっくに、芝の山内を駈け抜けていたのである。

「まず、これで一角の目も、当分の間は、自分を見つけだせぬであろう」と、かれの心は爽やかに晴れていた。

そして、疲れと寒さをこらえながら、その夜のうちに、駿河台まで辿ってきた。

見るにたえない焼け跡のさまが、荒涼として彼を迎えたのみである。

墨屋敷のあともなければ、お千絵様の姿もない……。