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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

と――その混雑の中をくぐって、走り寄ってきた見返りお綱は、今しも孫兵衛や、一角の手に引きずられてゆくお獅子の姿を見ると、吾を忘れて、

「あッ――お三輪ちゃん」

肉親の愛情、その対手が何者であるかも目には止めないで、帯のあい首に手をやるが早いか、キラリと抜いたのを袖裏へ逆手に隠して、

「おい、お待ちッ!」と、癇走った声を投げた。

可憐な姉弟を取り返そうとする一心である。お綱がその時の血相の前には、お十夜の怖るべきことも、周馬や一角の太刀の凄みもなかった。

お綱が向う見ずに駈けだしたので、万吉は、あッと胆をつぶして、その後ろから力の限り抱き止めた。

「ど、どこへ行くんだ!」

「知れているじゃないか――。あれ、可哀そうに」

「まあ、待ちねえ。待ちねえッてことよ!」

「ええ畜生。ま、万吉さん――そんな悠長なことをしちゃいられない――今向うへ引きずられて行く姉弟は、ありゃ実の私の小さい妹弟なんだよ……」

「うむ、お三輪と乙吉――それがお前の親身だというこたあ、おれもうすうす知っているが、なにしろ対手がお十夜にまだ二人の連れがある。でなくてせえあいつらは、お前の姿を探し廻っているところだ」