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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
生命さまざま
――お島は、独り言のように、笑っていった。
「びッくりさせるよ。わたしゃアまた、ゆうべのことがあったから、てっきり、捕手がお出でかと思ったのさ」
そして、市十郎の横顔を、ながし眼に見たが、市十郎は、凝然と、あらぬところへ眼をやったまま、うつろな身を、石のようにしていた。
生命さまざま
やがて、往来は真ッ黒になった。人垣ばかりでなく、屋根の上にまで、人間が見えた。
赤穂浪人の何十名かが、静かな列伍をなして、いまそこの往来を芝口の方へ向って通行してゆくらしい。
静かである。久しぶりの青空が、雪に映じて、明るい、和やかな光を、町々へそそいでいた。今しがたの、あれほどな騒音も、一刻、雪解の雫や、雀の声さえ聞えるほど、しいんとなって、浪士たちの列が、まだ往来には続いているらしい。
「…………」
二階の窓口にいた市十郎は、ぺたっと、そこに坐ってしまった。
お島は、いつか側にいなかった。捕手でなかった安心と、婆あやまで飛出して行ったので、かの女も、往来まで、見物に行ったものとみえる。
――市十郎は、肩の間へ、ガクリと首を垂れ、いつまでも、そうしていた。
元禄という今を、時代の中を――ある見えざるものが、大きな黙示をもって静かにながれてゆく様が――市十郎の閉じた瞼にも映ってゆく。