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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
「来る! いまに義平太か、勘蔵かが、きっと手配して、やって来る」
彼は、信念して、眼をとじた。今になって、体じゅうの痛みが知覚されてくる。夜か昼か、何刻かもわからない。――が、鶯橋の上から、そう長い時間が、過ぎたとは考えられない。
遠くもない鐘の音が聞えた、寛永寺の鐘だ。とすれば、ここはやはり上野に近い御隠殿あたりだろう。あの化物刑部の寺屋敷か。そうだ、そんな気がされる……。
その、時の鐘を、何度か聞いた。やがて、暮れ六ツが、かぞえられた。
「旦那……。山本の旦那」
ひくい声が、どこかで呼ぶ。肚をすえて、居眠っていた山本左右太は、夢か、と疑うように、見まわした。
「旦那……。辰です、辰三ですよ。わかりますか」
聞きとれないような小声だが、たしかに、床上の声ではない。左右太は、闇に馴れたひとみを、一方へこらした。
蟇のように、腹這いになった人影が、もうひとつ先の土台柱の下に屈まッている。南の同心部屋から目明し部屋を通じても、いちばん古顔といわれる目明しの辰――その辰三にちがいなかった。
「おっ。辰か」
「しッ……」と、辰は手を振った、そして、しきりに、手招ぎしている。