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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

心炎狂舞

長いこと、左右太の報告はつづき、更に、べつな報告を出して、机上の資料に、いろいろな、新材料を加えていた。

いつか、中庭の西陽もかげり、冷ややかな夕風のおとずれと共に、役宅の書記、その他の役人も、ぼつぼつ退いていた。

すると、どこやら、遠くに――

「ばか野郎っ。やいっ、牢番どもっ。なぜ寄って来ぬ。恐いか。おれが恐いのか、奉行が恐いのか。わはははッ。馬鹿奉行のどこが恐い」

吠えるような大声である。

暮れかけている牢長屋の屋根をこえ、柵を越え、役宅の幾棟をもこえて聞えてくるのである。

よほどな大声で喚いているにちがいない。

心炎狂舞

越前守は、はたと、耳をすました。

つぶやくように、三人へいった。

「また、亀次郎がわめきおる。あれでは、体が保つまい。薬はやってあるか」

「よく、獄医に、気をつけさせておりまする」

と、勘蔵が、答えた。勘蔵やほかの者たちの方が、胸をえぐられているような眉根を見せている。

「獄医では、何かと、届かぬふしもあろう。義平太」

「はい」

「いちど、其許の父、市川楽翁どのにも来診を乞うて、よく診てつかわすとよいな」

「申し伝えておきます」

――するとまた、聞えて来た。