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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
「おつかれでしょう、そんなに、御本ばかり読んでいらっしって」
「いいんです。抛っといて下さい。秋の晩は、燈下書に親しむとき。夜が更けるのを知りません」
「お父上も、お母様も、市十郎は、まるで変った。閉門の事などから、どうかしたのではないかなどと……陰で心配していらっしゃいますよ」
「出かければ、出かけるで、やかましいし」
「ほんとにね。でも、三、四年前は、いくら何でも、あんまりでした。毎晩のように、夜遊びにばかり出ていらしって」
「…………」
うるさげな彼の顔いろにもかまわず、お縫はひとりで話しかけていた。
「いちどなんか、夜明け近くに、塀をこえて、お帰りになったことなんかあったでしょ」
「縫どの。お寝みください」
「まだ、御書見ですの、――戸は」
「自分で閉めます」
「じゃあ、おさきに、寝ませていただきまする」
もういくらか、かれの妻らしくさえしている風に見える。
市十郎には、感興がない。きらいではないが、好きでもない。
読書。かれは常に、今でも、その中に潜入していないと、自分の心が、なおどこか危うげでならない。
三年前の閉門は、まこと、自分の危うい青春のわかれ道を、一歩前で救ってくれた事だったとおもう。