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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
仲間の籍
古人の書に、素直に訊こう。子どもになって、大人の体験に訓えられよう。要は、生命の問題だ。人と生れたという意義を、どう享けるべきか。人間の世。おもしろいと観るべきか。憂しと観るべきか。また、くだらぬ泡沫と観るべきか。
「……おや?」
かれは、ふと、庭面の秋草へ、ひとみをこらした。はたと、虫の音が一ときにやんだからである。
「おい。……市の字。おぼえているかい。おれを」
袖垣のあたりの萩叢を割って、ぬうッと、誰やら頬被りをした男の影が、中腰に立ち、こなたの書院の明りに、顔をさらして見せた。
「た、たれだ、そちは? ……」
息をつめて、凝視したが、分らなかった。
「わかるめえ。わからねえはずだよ、於市。四年ぶりだもの。ああ、なつかしいなあ、この部屋も」
蟇のように、のそのそと近づいて、沓石へ腰をすえ、かぶっている布を脱ると、縁に肱をつきこんで、ヘラヘラ笑った。あばた顔だが、その笑い癖は、市十郎の遠くない記憶を、ギクとよび醒ました。
仲間の籍
悪友仲間のきずなほど、宿命的なものはない。
兄弟のきずな、主従のきずなは、なお断ちえても、悪い仲間の籍を抜けて、正しきへ返ろうとする道はむずかしい。