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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

と、前髪姿の若者が、白い顔を振り上げて見せた。

おおその顔。いや、藪八に采女とは呼ばれたが、また、前髪立ちの小姓姿こそしているが――かつて山善に兇悪な強盗事件の起った当夜、江戸橋の自身番にふと姿を現して、万字屋の姉崎吉弥と名を偽って、そこに捕われていた母のお袖を助けて逃げたあの男装の妖女と、まるで瓜二つともいえるではないか。

――と、すれば、その後、御隠殿下の手入れの夜、寛永寺の森へ追いつめられた母子のひとり――お燕がそれにちがいない。

当夜、医者の楽翁が駕籠にのせて、何処へかへ隠し去ったお燕の身は、やはりこうして、楽翁の手で、ここに匿われていたものとみえる。

二階の藪八は、離室の顔へ、眼でうなずいて、

「うム、呼んだよ。今日はな、日和もよし、わしと一緒に、上野でも、ぶらつこうと思ってな。――はやく身支度をしておいで」

「え。上野へ……ですか」

「うれしいか。采女」

「うれしゅうございます。いますぐ支度して参りまする」

窓が閉まった。

藪八は、楽翁と、顔見あわせて、

「おもえば、不愍な者……」

と、呟いた。

が、楽翁は、後から首を振って、

「いや。不愍と申せば、彼女よりはまだ、越前守と申すお人こそ、世にもいたましいお方ではなかろうか。