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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

「それっ、左右太。早くっ、早く召捕れ」

「えい、おぬしこそ、なぜ捕えぬ」

たがいに、躊躇い、たがいに譲り合っているような、ふしぎな声が、番屋と橋の間の木蔭に聞えた。――その隙に、お袖の影は、橋の上を、夜魔のごとく、駈けてゆく。

「義平太、来いっ」

さきに、そこから捕り縄を抛ッた山本左右太は、とっさに、叫びながら、身を橋上に躍らせていた。

「――鬼になれ、鬼になれっ。ここでまた、見のがしては、お奉行の心を、踏みにじるのも同じだぞ」

「オオ。もう迷わん。おれが召捕る」

二人の脚の迅さは、もちろんお袖をしのいだ。

「観念っ」

「お袖。御用っ」

ふたつの喚きが、同時に、お袖のかぼそい影を圧し伏せた。もろ手を、後ろへ捕られながら、お袖はさけんだ。

「南の役人かえ。北の人間かえ。どっちなのさ。どっちだか、それを、聞かして」

答えず、あともいわせず、二人は、お袖をからめ上げて、すぐ自身番の方へ、引ッたてた。

その縄尻を持つ市川義平太も、山本左右太も、見るにたえないもののように、お袖の姿に、眼をそらして歩いた。いや、二人の眼には、涙すらあった。暗然と、唇をかみ、またあわてて、肱を曲げては、両眼を拭った。