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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

「それらの事も、覚えないか。むりもない。五ツの頃から、両親に死別し、以後は、人の子にして、人の子の情けを知らず、世間に生きながら、世間の何かも知らず、ただ人の世に漂うて生きて来ただけの女だ。……追ってまた、白洲へ呼び出すであろう。立て!」

と、越前守は、あっさり仮吟味を終って、目安、書記、同心たち一同へむかって、

「女を、仮牢へ下げい」

と、宣告した。

そして越前守が、つと、席を立ちかけると、それまでは、自分と自分との闘いに、唖のように悶えをかかえていたお袖が、突然、盲目的に身を起して、

「お待ちッ。お待ちよっ。市十郎!」

と、絶叫を浴びせた。

「すわ」

と、何事かを予期していた山本左右太は、まっ先に、お袖のうしろからその片腕を抑えた。

「何するんだえ、お前たちは」

お袖は、振りほどいて、奉行の席へ、飛びついて行きそうにした。しかし、たちまち大勢の同心たちが、彼女の狂いまわる力を、もとの白洲の上に、捻じ抑えた。

「…………」

越前守は、振り向きもせず、さや形模様の襖の内へ、退席してしまった。

人々もすぐ立つべきであった。また、傍聴の横目たちも、退席すべきである。