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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

「知っているくらいなら、初めからそう書くわ」

「あれ……だめだぜ、爺さん……この手紙は、爺さんのほかには誰にも読めないぜ」

「じゃあ、汝、書いてみろ」

筆を突きつけると、

「書くから、文句をおいい、お文句をさ……」

上がり框に腰をかけて、居酒屋の城太郎は、筆を持った。

「馬鹿よ」

「なんだい、無筆のくせに、人を馬鹿とは」

「紙へ、鼻汁が垂れたわ」

「ア、そうか。これは駄賃――」

その一枚を揉んで、鼻汁をかんで捨てて――

「さ。どう書くんだい」

筆の持ち方はたしかであった。木賃のおやじがいう言葉を、その通りさらさらと書いてゆく。

……ちょうどその折であった。

今朝、雨具を持たずに出た此宿の客は、泥田のような道を、びしょびしょと重い足で帰って来た。かぶって来た炭俵を、軒下へ投げやって、

「――ああ。梅もこれでおしまいだな」

毎朝目を娯ませてくれた門口の紅梅を見あげながら、袂を絞って呟く。

武蔵であった。

もうこの木賃へは二十日の上も泊っているので、彼は、わが家へ帰って来たような安堵を覚える。

土間へ入って、ふと見ると、いつも、御用を聞きに来る居酒屋の少年が、おやじと首を寄せ合っている。