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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新書太閤記(しんしょたいこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 頁

青空文庫

しかし彼は眩しさなどは意にもかけず、顔をしかめて、頬や顎を剃りはじめた。

彼は総体に毛深いほうであったが、顎などは、幾日おいても、鬚が伸びなかった。――というよりは、まだ生え揃わない感じである。精神的には急速に発達して来たが、肉体の発育は人なみより遅れている傾きがどうもあった。そのせいでもあろうか、時々彼は稚気を演じる。幾歳になっても、どこかに、世のつねの大人らしくないところがある。

「さ、よいぞ。剃刀は下げてよい。こんどは髪だ、市松、うしろへ廻って、髪の根を締めてくれい、少々、鬢だらいの水をしめして」

「お笄を拝借いたします」

市松は、主人のうしろへ坐り、秀吉の脇差に挿してある金象嵌の笄をかりた。

それを、鬢だらいの水にひたし、秀吉の髪を撫であげてから、

「よろしゅうございますか」

「よし、よし」

「もすこし、お髪の根を、かたく締めましょうか」

「いや、そう固いと、眼じりが吊る。このくらいでいい」

「殿さま」

「なにか」

「きょうに限って、暗いうちにお目ざめ。そしていつにないおめかし。みな不審がっておりまする」

「なにが不審。あたりまえではないか。日本一の恋人に会う日であるぞ」