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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁
彼は横街の方から洋食屋へ往った。
磨りガラスの障子がすこし開きかけになっていた。もう夕方のように微暗い土間には七つか八つの円いテーブルが置いてあって、それに三人ばかりの客が別れ別れに腰をかけていた。謙作の眼はすぐ入口のテーブルに内の方を向いて腰をかけている、茶のぼろぼろになった洋服を着た日本人とも支那人とも判らないような男の横顔へ往った。右のむこうの隅には濃い髪を束髪にした女が錦紗らしい羽織の背後姿を見せて、前向きに腰をかけていたが、その束髪に挿した櫛の玉が蛇の眼のように暗い中にちろちろと光って見えた。
好い女がいるな、と謙作は男の何人でも思うようなことをちょと思い浮べながら、右側のテーブルへ往ってぼろぼろの洋服の男の横顔の見えるように、白く塗った板壁を背にして腰をかけた。壮い女給の一人がひらひらと蝶のようにその前へやって来た。
「召しあがり物は」
謙作は籐のステッキを右側の壁に立てかけていた。
「魚を喫いたいが、何か魚のフライでももらおうか、フライは何ができるかね」
「鯛でも鰆でも、どっちでもできます、お魚軒がお入用なら、お魚軒もとれます」
謙作は嬉しかった。