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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁
草藪の中
夕月が射して虫が鳴いていた。益雄はその虫の声に耳を傾けながら跫音をささないようにと脚下に注意して歩いていた。そこには芒の穂があり櫟の枝があった。
それは静かな晩で潮の音もしなかった。その海岸に一週間ばかりいて好きな俳句を作り、飽いて来ると水彩画を画いていた益雄は、父親から呼ばれて明日の朝の汽車で東京へ帰ることになったので、静な居心地の好い海岸へ名残を惜むような感傷的な気もちになって、夕飯の後で海岸へ出、水際を歩いてみたり、陽の温みの残っている沙の上に腰をおろしてみたり、我がままいっぱいに体をふるまって俳句などを考えていたが、それも厭いて来たので旅館へ帰りかけたところで、本門の方から往くと遠くて無趣味であるから、その草藪を通って旅館の裏手から入ろうとしているところであった。
虫の音はますます冴えて来た。益雄は虫の音を句にしたいと思った。彼は月の蒼白い光が櫟の枝にほんのりとかかった色彩のぐあいに眼をつけた。と、左の方に当ってがさがさと云う枯れた草木の枝葉に足を触れる音が聞えた。益雄はびっくりして犬だろうか人だろうかと思って眼をった。
手に小笊を持った男の子が兎のようにきょときょとして出て来た。