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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁
芳郎はその時、ミルの著書の中にある文句を頭に浮べていたが、何かの拍子にふいと見ると、束髪に赤い花をさした令嬢風の女が己の前を歩いていた。壮い芳郎の眼はその花にひきつけられた。冬薔薇のような赤い活いきとした花は、鼠色にぼかされた四辺の物象の中にみょうにきわ立って見えた。
女もゆっくりと歩いていた。芳郎の足は知らず知らず早くなった。女は坂を登りつめて、平坦な路のむこうにその背後姿を消しかけた。芳郎はその姿を見失うまいと思って走るようにあがって往った。と、その跫音が聞えたのか女はちょと揮返った。それは白いな顔であった。芳郎ははしたない己の行為に気が注いて立ちどまるように足を遅くした。
芳郎はまた女の美貌に眼をひかれた。どこの令嬢だろう、ああして一人歩いている処を見ると、どこかこの辺に邸があるだろう、それとすれば、どこの女だろうか、と、彼はその辺に立派な邸を持った豪家を考えて見たが、彼の知っている限りでは、そう云うような家はなかった。
女の姿は坂の上にかくれて往った。彼はまた急いで坂を登り切った。女の姿はもう見えなかった。坂の上の古い通路は二条になっていて、むこう側には杉の生垣でとり廻わした寺の墓地があった。