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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
そして薩艦春日丸から下船した青漆塗り長柄の駕が五挺、燃えさかる篝火と雪明りの中を、埠頭の方から、ものものしく歩いて来る。
駕一挺に、十五、六人の侍が付き、さらに、いちばん後列から、百人ほどの薩摩の兵が上陸して、駕は、桜山の春帆楼の方へ――、また、薩摩の兵と、奇兵隊の一部は、わかれて、どやどやと兵舎のうちへ、なだれこんできた。見るまに、広場の雪は、暗くなる。
薩摩弁だの、長州弁だの、土佐ことばだのが、たちまち、露八のいる倉のまわりをも取り巻いた。干鯣を持ったり、沢庵漬をかじったりして、慰労の酒に、兵たちが、はしゃぎ出した。
(戦か?)
と思ったが、戦の士気にしては、笑い声が高すぎる。佐幕も勤王も、こちらは、世間の役に立たない腑抜けと、ふだんは、路地の日陰を自分のゆるされた棲家として、耳にふたをしている露八だったが、こうなると、社会のうごきにも、関心を持たずにいられなかった。社会の動流が、まちがえば、自分の生死に関わってくるのだ。
(戦でなければ、また、外国の艦でもくるのか。鉄砲弾丸は、ご免だぞ)
外部の活気が、彼をもくるんで、いたずらな昂奮の上に彼をも乗せた。