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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁

青空文庫

三

「そのうちに、改めて、屋敷へ、お招き申すから」

「馬鹿をいえ」

笑い消して、庄次郎を中に、取り囲んだまま、無理押しに、歩きだした。

三

「近習番頭取の土肥半蔵ときたひには、他人の伜の品行まで頭痛にやむニガ虫屋の堅蔵だ。――その親父のまえで、吝たれた酒など飲むのは、招ばれても、こっちで、ごめん蒙りたい。とにかく、同門の祝杯を、拒むという法はない」

「でも」

「何が、でもだ」

「弟の八十三郎もいないしするから」

「八十三郎がいないから、なお、いいじゃないか。兄貴の君とはちがって、あれは、通人だぞ。なかなか、蔭にまわって、遊っとるらしい」

「そんなことはない。弟は、堅い」

「弟は堅いから、兄貴も、堅くしなければならんという理屈はない。それに、吉原や辰巳へでも、交際えというならとにかく、酒ぐらい飲んで、何がなんだ」

「実は、金がない」

「嘘をつけ。土肥の吝ん坊が、藩では、いちばんの金持ちだといわれておる。吾々の親父も、みんな、貴公の親父から、利息金を借りているんだ。その長男たる貴様が小遣いがないなんて云ったって、誰が、ほんとにするものか。なくても、貴様の顔さえ借りれば、どこでも、酒ぐらいは出す」