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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁
この老人がその小さな丸い目を杉の杜の薄暗い陰でビカビカ輝らせて、黙って立っているのを見るとだれも薄気味の悪い老翁だと思う、それが老翁ばかりでなく「杉の杜」というのが、岩――の士族屋敷ではこの「ひげ」の生まれない前のもっと前からすでに気味の悪いところになっているので幾百年かたって今はその根方の周囲五抱えもある一本の杉が並木善兵衛の屋敷の隅に聳ッ立ッていてそこがさびしい四辻になっている。
善兵衛は若い時分から口の悪い男で、少し変物で右左を間違えて言う仲間の一人であったが、年を取るとよけいに口が悪くなった。
『彼奴は遠からず死ぬわい』など人の身の上に不吉きわまる予言を試みて平気でいる、それがまた奇妙にあたる。むずかしく言えば一種霊活な批評眼を備えていた人、ありていに言えば天稟の直覚力が鋭利である上に、郷党が不思議がればいよいよ自分もよけいに人の気質、人の運命などに注意して見るようになり、それがおもしろくなり、自慢になり、ついに熟練になったのである。彼は決して卜者ではなかった。
そこで豊吉はこの「ひげ」と別に交際もしないくせに「ひげ」は豊吉の上にあんな予言をした。