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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁
星
都に程近き田舎に年わかき詩人住みけり。家は小高き丘の麓にありて、その庭は家にふさわしからず広く清き流れ丘の木立ちより走り出でてこれを貫き過ぐ。木々は野生えのままに育ち、春は梅桜乱れ咲き、夏は緑陰深く繁りて小川の水も暗く、秋は紅葉の錦みごとなり。秋やや老いて凩鳴りそむれば物さびしさ限りなく、冬に入りては木の葉落ち尽くして庭の面のみ見すかさるる、中にも松杉の類のみは緑に誇る。詩人は朝夕にこの庭を楽しみて暮らしき。
ある年の冬の初め、この庭の主人は一人の老僕と、朝な朝な箒執りて落ち葉はき集め、これを流れ岸の七個所に積み、積みたるままに二十日あまり経ちぬ。霜白く置きそむれば、小川の水の凍るも遠からじと見えたり。かくて日曜日の夕暮れ、詩人外より帰り来たりて、しばしが間庭の中をあなたこなたと歩み、清き声にて歌うは楽しき恋の歌ならめ。この詩人の身うちには年わかき血温かく環りて、冬の夜寒も物の数ならず、何事も楽しくかつ悲しく、悲しくかつ楽し、自ら詩作り、自ら歌い、自ら泣きて楽しめり。
この夕は空高く晴れて星の光もひときわ鮮やかなればにや、夜に入りてもややしばらくは流れの潯を逍遙してありしが、ついに老僕をよびて落ち葉つみたる一つへ火を移さしめておのれは内に入りぬ。