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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

かれ

あらあらしく頭を壁に押しつけてもがいた。座ぶとんに顔を埋めてしばらく声をのんで哭した。

かれ

秋の末のことであった。自分は駿河台の友人を訪ねて、夜に入ってその家を辞して赤坂の自宅を指して途を急いだ。

この夜は霧が深く立てこめていて、街頭のガス燈や電気燈の周囲に凝っている水蒸気が美しく光っておぼろな輪をかけていた。往来の人や車が幻影のように現われては幻影のように霧のうちに消えてゆく。自分はこんな晩に大路を歩くことが好きで。霧につつまれて歩く人を見るとみんな、何か楽しい思いにふけっているか、悲しい思いに沈んでいるかしているようで、自分もまた何とはなしに夢心地になって歩いた。

九段坂の下まで来ると、だしぬけに『なんだと、酔っている、ばか! 五合や一升の酒に酔うようなおれ様か!』という声が自分のすぐ前でしたと思うと自分とすれ違って、一人の男がよろめきながら『腰の大小伊達にゃあささぬ、生意気なことをぬかすと首がないぞ!』と言って『あははははッ』と笑ッた。自分は驚いて、振り向いて見ると、霧をこめておぼろな電気燈の光が斜めに射して大男の影を幻のように映していた。